洋子とよしきは洋子の描いたデッサンを覗き込みながら話を弾ませていた。
「…でね、ここの線をこう、ふっくらさせると、ほら、ぐんと可愛くなるでしょう?」
「あ、ほんとですね。面白いなぁ。ほんの少しの違いなのに…」
洋子は洋子の話に熱心に聞き入るよしきが嬉しかった。
家でも洋子の仕事に理解のある夫ではあったが、洋子の作品そのものには特に関心を示すようなことはなかった。
それに比べてよしきはとても新鮮なものを見るかのように洋子の作品に見入り、洋子の話に耳を傾けてくれていた。
二人はいつの間にか向かい合わせから、肩を並べて隣同士に座り、絵を覗き込んでいた。よしきがいつの間にか自然に席を移動したのだった。
洋子は不意にドキっとした。よしきの左手が絵を持つ洋子の左手を上から包むように添えられたからだ。よしきにとってそれは絵をよく見るために自然な動きだったが、洋子にとっては夫の手の感触すら忘れそうになっているほどで、新鮮な感触だった。
「あれ、どうかしましたか?」たずねるよしきに言葉を忘れていた洋子は、はっとした。「あ…、えっとそれでね、こっちの絵は…」洋子の心臓はどんどん高鳴っていった。
そんな洋子に気付かないふりをして話を聞き続けるよしき。だが、実は洋子のその様子の変化を敏感に感じていた。よしきはもっと肩を寄せるように椅子を洋子に近づけた。
もし周囲から見たらそれは"夫婦の距離"以上の"恋する者同士の距離"に見えただろう。だが、この静かなカフェは店員の視線すら気にならないほど二人の世界に浸れる場所であった。
お茶だけでは長いと思われた3時間も、もうじき過ぎようとしていた。
洋子はあれほどじっくりと横並びで話したのに、まだ何か足りないという感覚を覚えていた。よしきも同じだった。ただ、違うのはよしきにはその「何か」がわかっていたことだった。
「洋子さん?」そう呼ぶよしきの方を向いた洋子は頭の中が真っ白になった。よしきの顔が思わぬ近距離にあったからだ。
動きを止める洋子。近づくよしきの顔。
洋子は自然と目を閉じていた。
よしきの唇が洋子のそれに重なった。そして数秒後に離れた。
目を見つめあう洋子とよしき。すると、今度は洋子の方からそーっと目を閉じた。
さっきより深いキス…。さっきより長い時間…。
足りない「何か」がこれだったことを洋子も悟った。そして、約束の3時間が過ぎた。
「また、会いたいわ。」
「ええ、僕も。もっとお話し聞かせてほしいです。ご連絡お待ちしてます。」
そう言って二人は別れた。
しめて1万5000円也。
〜END〜
洋子がよしきと恋人のような時間を過ごすことになったきっかけのサイト
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